美容室の法人オーナーが冬のボーナスを自分に出すなら|役員賞与が経費にならない理由と「事前確定届出給与」の期限・注意点を税理士が解説
「今年はなんとか利益が出たから、冬は自分にもボーナスを出したい」「スタッフには賞与を出すのに、社長の自分は出せないの?」。法人化した美容室のオーナーから、11月になるとよくいただくご相談です。
実は、法人では役員に支給する賞与は、何も手続きをしないと会社の経費(損金)になりません。気持ちよく賞与を出したつもりが、決算で税金が増えてしまうケースもあります。
この記事では、法人サロンのオーナーが役員賞与を考えるときの基本ルールと、「事前確定届出給与」という仕組み、届出期限の考え方を整理します。
スタッフの賞与と役員の賞与は税務上の扱いが違う
美容室のスタッフに支給する冬季賞与は、原則として人件費として経費にできます。スタッフ賞与の実務(歩合給との関係、社会保険、源泉徴収)については、美容室の冬季賞与、歩合給スタッフの賞与計算と社会保険・源泉徴収の実務で詳しく解説しています。
一方、取締役などの役員に支給する給与は、国税庁の案内によると、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金の額に算入されないとされています。つまり、役員が「決まった時期に決まった額を毎月受け取る」形から外れる賞与は、そのままでは経費にならない可能性が高いということです。
美容室でよくある「うっかり」の例
- 12月の資金に余裕があったので、オーナー(代表取締役)に臨時で100万円を振り込んだ
- 決算直前に利益が出そうだったので、慌てて役員賞与として処理した
- 奥様(取締役)にもスタッフと同じタイミングで賞与を出した
こうした支給は、事前の届出がなければ損金不算入となり、会社の法人税が増える一方で、受け取った本人には給与所得として所得税がかかります。会社と個人の両方に負担が出る点に注意が必要です。
役員給与で経費にできる3つの形
| 種類 | 概要 | サロンでの使いどころ |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月ほぼ同じ額を支給する役員報酬 | オーナーの毎月の役員報酬。最も一般的 |
| 事前確定届出給与 | あらかじめ決めた時期・金額を税務署に届け出て支給する給与 | 冬・夏の役員賞与を出したいとき |
| 業績連動給与 | 利益などの指標に連動して決まる給与 | 要件が厳しく、小規模サロンではあまり使われない |
小さな美容室の法人では、多くの場合「毎月の定期同額給与」を基本にしつつ、賞与を出したい場合に「事前確定届出給与」を検討する、という整理になります。役員報酬の決め方全般は、美容室の法人化は利益いくらから?個人と法人の手取り比較表もあわせてご覧ください。
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額を支給する旨をあらかじめ定め、税務署に届け出ておくことで、その給与を損金に算入できるようにする制度です。国税庁の「事前確定届出給与に関する届出書」を提出します。
基本の流れ
- 株主総会(一人社長の会社でも議事録を作ります)で、役員ごとに「いつ・いくら支給するか」を決議する
- 期限までに、所轄の税務署へ届出書を提出する
- 届け出た内容どおりの日に、届け出た内容どおりの金額を支給する
ポイントは「確定した額」を「決まった日」に支給することです。業績を見てから金額を決める、というやり方とは相性がよくありません。
届出期限は「早いほう」に注意
国税庁の案内では、届出期限は原則として次の(1)と(2)のうち、いずれか早い日とされています。
- (1) 株主総会などの決議をした日から1か月を経過する日
- (2) 会計期間の開始の日から4か月を経過する日
このほか、新設法人は設立の日以後2か月を経過する日、臨時改定事由(役員の職務内容の大幅な変更など)による定めには別の期限が示されています。詳しい要件は、国税庁のタックスアンサー「事前確定届出給与」と最新の様式でご確認ください。
「今から12月賞与に間に合うか」は決算期で変わる
(2)の「会計期間の開始から4か月」は、思いのほか早く来ます。たとえば、一般的な例として次のようになります。
| 決算月 | 期首 | 期首から4か月を経過する日 | 今年の12月賞与の届出は? |
|---|---|---|---|
| 3月決算 | 4月1日 | 7月31日 | 期限は過ぎている(届出済みか要確認) |
| 12月決算 | 1月1日 | 4月30日 | 期限は過ぎている(届出済みか要確認) |
| 8月決算 | 9月1日 | 12月31日 | (1)の「決議から1か月」が先に来るため、決議日から逆算 |
つまり、すでに期首から4か月を過ぎている会社が、11月になって「やはり12月に賞与を出したい」と思っても、原則としては届出期限に間に合いません。国税庁の案内には「やむを得ない事情があると認めるとき」の例外も書かれていますが、「出したくなったから」は該当するものではありません。例外に頼らず、期首の早い時期に計画しておくのが基本です。
この冬に間に合わない場合は、来期の期首に向けて「年間の役員報酬の設計」の中に賞与を組み込むのが現実的です。
届出どおりに支給しなかったらどうなる?
届け出た金額・日付と実際の支給が食い違うと、損金算入が認められなくなるおそれがあります。たとえば、届出は12月10日に100万円なのに、資金繰りの都合で12月25日に支給した、あるいは80万円に減らした、といった場合です。
業績が悪化したときに減額する場合などは、別途「変更届出書」や所定の要件が関わります。個別のケースは自己判断せず、事前に税理士へご相談ください。
美容室は、年末にかけて仕入やリース、設備の更新で現金が動きやすい時期です。資金繰りの見通しが立たないまま届出をすると、支給できずに困ることがあります。届出の前に、キャッシュの予測を立てておきましょう。
役員賞与を出す前に確認したい5つのチェックポイント
1. 毎月の役員報酬の一部を賞与に回す意味があるか
毎月の役員報酬(定期同額給与)を増やすほうが、手続きがシンプルで、金額の見通しも立てやすいという面があります。賞与にすることで、社会保険料や所得税の負担がどう変わるかは、会社の状況によって異なります。
2. 利益が出なかったときに支給できるか
事前確定届出給与は、決めた額を決めた日に支給することが前提です。赤字になりそうでも支給しなければならない、という硬直性があります。美容室の売上は、季節や新規の集客状況で波があるので、無理のない金額にしましょう。
3. 社会保険料への影響を試算したか
賞与にも社会保険料がかかる場合があります。会社負担と本人負担の両方を見込んで、手取りと会社の負担を試算しておくと安心です。
4. 議事録・届出書の控えを保管しているか
税務調査では、届出書の控えと株主総会の議事録、実際の振込記録が照合されることがあります。一人社長の会社でも、決議の記録を残してください。
5. 同族会社としての見られ方を意識しているか
オーナー一族だけで経営している会社では、役員給与が不相当に高額でないかという視点でも見られます。業績や同業他社の水準とかけ離れた金額は避けましょう。
スタッフ賞与との関係も整理しておく
役員が賞与を受け取る一方で、スタッフへの賞与や最低賃金の引き上げ対応が負担になる、という声もよく聞きます。会社全体の人件費と利益のバランスを見る際は、美容室の年内利益の着地見込みの出し方を使って、10月までの試算表から年末の見込みを出してから判断するのがおすすめです。
「利益が出るから役員賞与で調整しよう」という発想は危険です。役員賞与を出しても、届出がなければ経費にならず、利益は減りません。節税の手段として安易に使うのではなく、報酬の設計として考える視点が大切です。
個人事業主のオーナーの場合は?
個人事業主として営業している美容室オーナーは、ご自身への給与を経費にすることはできません。事業で得た利益そのものがオーナーの所得になるため、ここまでの役員給与のルールは法人にのみ関係します。個人事業主が法人化を検討する際の考え方は、上記の法人化の記事を参考にしてください。
支給するときの実務と、スケジュールの組み方
事前確定届出給与として支給した役員賞与も、給与として扱われます。支給の際は、所得税の源泉徴収が必要です。役員賞与を支給した月は、給与計算の担当者(オーナー自身や顧問先の経理担当)が、源泉所得税の計算と納付を忘れないようにしましょう。年末調整の対象にもなります。
具体例(金額は説明用の仮定です)
例えば、12月決算・スタッフ6名の美容室で、オーナー(代表取締役)が「来年の冬は役員賞与を出したい」と考えたとします。この場合の段取りは次のようになります。
- 決算確定後の定時株主総会で、来期の役員報酬と賞与(支給日・金額)を決議する
- 決議から1か月以内、かつ新期首から4か月以内のいずれか早い日までに届出書を提出する
- 夏と冬の売上の波を見て、資金繰り表で支給日の預金残高が足りるか確認する
- 支給日に、届出どおりの金額を振り込み、源泉徴収と社会保険の手続きを行う
このように、賞与は「年初に決めて、年末に実行する」計画型の仕組みです。思いつきで出すものではありません。サロン経営では、年末の繁忙期は現場に集中するため、手続きが後回しになりがちです。決算の直後に、年間の役員報酬のスケジュールまでまとめて決めておくと、抜け漏れを防げます。
届出をするか迷うときの考え方
届出の手間や、支給日に必ず現金を用意する負担を考えると、役員賞与を出さずに、毎月の役員報酬を適正な額に設定するほうが合う会社も多くあります。逆に、夏冬に売上が伸びやすいサロンで、まとまった額を計画的に受け取りたい場合には、事前確定届出給与が選択肢になります。どちらが合うかは、売上の季節変動、借入の返済額、社会保険料の負担を踏まえて判断します。
まとめ
- 法人サロンの役員賞与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のどれにも当たらないと損金にならない
- 冬のボーナスを出すなら、事前確定届出給与として、決議と届出を事前に行う必要がある
- 届出期限は「決議から1か月」と「期首から4か月」のいずれか早い日が原則。決算期によっては、今年の12月分はすでに期限が過ぎている
- 届出どおりの日・金額で支給しないと、損金算入が認められないおそれがある
- 賞与にするか、毎月の報酬にするかは、資金繰り・社会保険料・個人の税金を含めて検討する
制度の細かな要件や様式は改正されることがあります。実際に届出をする際は、国税庁の最新の案内をご確認のうえ、顧問税理士などの専門家にご相談ください。
ご相談について
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。来所・オンライン面談・LINE・電話・メールで対応しています。
▶ LINEで無料相談:https://page.line.me/521fhuau
▶ お問い合わせフォーム:https://salon-tax.com/contact/
▶ お電話:072-200-3579