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美容室の冬季賞与、歩合給スタッフの賞与計算と社会保険・源泉徴収の実務を税理士が解説

「今年はスタッフに冬の賞与を出したいけれど、歩合給や指名料が絡む給与体系だと、賞与の金額をどう決めればいいのか分からない」「賞与を出すと社会保険料や源泉徴収の手続きがどう変わるのか、正直よく分かっていない」——美容室・ヘアサロンのオーナーから、こうした相談を年末が近づくこの時期によくいただきます。

月給とは別に支給する賞与は、社会保険料の計算方法も源泉徴収税額の計算方法も、通常の給与とは仕組みが異なります。さらに歩合給や指名料が中心のスタッフの場合、「前月の給与」を基準にする源泉徴収の計算で戸惑うケースも少なくありません。この記事では、美容室が冬季賞与・年末賞与を検討する際に押さえておきたい社会保険・源泉徴収の実務と、法人化しているサロンオーナー特有の注意点を税理士が解説します。

美容室における「賞与」の位置づけを整理する

美容室の給与体系は、基本給に歩合給や指名料を上乗せする形が多く、毎月の支給額が変動しやすいのが特徴です。そのため「賞与」という言葉を使っていても、実態としては何を指すのかを最初に整理しておく必要があります。

社会保険の実務上、「賞与」として扱われるのは、名称にかかわらず労働の対償として支給されるもののうち、年3回以下の支給にとどまるものです。夏・冬の年2回、あるいは年末の1回のみといった支給であれば賞与として扱われますが、歩合給の精算のような形で年4回以上定期的に支給しているものは、賞与ではなく毎月の報酬(標準報酬月額の算定対象)として扱われる点に注意が必要です。自店の賞与が「年3回以下」の要件に当てはまるかどうかは、まず確認しておきましょう。

賞与にかかる社会保険料の仕組み

標準賞与額の決め方

賞与にかかる健康保険料・厚生年金保険料は、実際に支給した賞与額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」をもとに計算します。保険料率は毎月の給与と同じ健康保険料率・厚生年金保険料率(労使折半)を用います。

上限額に注意

標準賞与額には上限が設けられています。

保険の種類 上限額 期間の考え方
健康保険 年573万円 毎年4月1日~翌年3月31日の累計額で判定
厚生年金保険 1回あたり150万円 支給1回ごとに判定(同月内に複数回支給する場合は合算)

小規模な美容室で上限額に達するケースは多くありませんが、法人化して役員賞与を検討する場合などは念頭に置いておくとよいでしょう。

被保険者賞与支払届の提出

スタッフに賞与を支給したときは、「被保険者賞与支払届」を賞与支払日から5日以内に日本年金機構(事務センターまたは管轄の年金事務所)へ提出する必要があります。提出を怠ると保険料の算定に支障が出るため、賞与支給のスケジュールを決めた段階で提出期限もあわせて確認しておきましょう。

賞与の源泉徴収税額の計算方法

賞与にかかる所得税(復興特別所得税を含む)の源泉徴収は、毎月の給与とは別の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。国税庁が毎年公表している源泉徴収税額表の中に、この賞与用の算出率表が収録されています。

基本的な考え方は、賞与を支給する前月の給与(社会保険料等控除後の金額)と扶養親族等の数をもとに税率を求め、その税率を賞与額(社会保険料控除後)に掛けて源泉徴収税額を算出する、というものです。前月に給与の支払いがない場合や、賞与の額が前月給与の10倍を超えるような場合には、通常とは異なる計算方法(月割計算等)を用いる特例があります。歩合給・指名料の比重が大きく、月によって給与額の変動が大きいスタッフを抱えるサロンでは、この「前月給与」の扱いを誤ると源泉徴収額を間違えやすいため、給与計算ソフトの設定や顧問税理士への確認をおすすめします。

源泉徴収税額表は税制改正の影響で毎年内容が更新されることがあるため、賞与を支給する年分の最新版を国税庁のウェブサイトで確認してから計算するようにしてください。

掛け持ちスタッフ(乙欄該当者)の賞与

面貸しやシェアサロンで他店と掛け持ちしているスタッフ、あるいは「給与所得者の扶養控除等申告書」を自店に提出していないスタッフに賞与を支給する場合は、扱いが異なります。扶養控除等申告書を提出していない人(いわゆる乙欄該当者)への賞与は、前月給与の額にかかわらず、賞与額に一律20.42%(所得税および復興特別所得税)の税率を掛けて源泉徴収します。美容室では複数の店舗で勤務するスタイリストやアシスタントも珍しくないため、誰がどちらの申告書を提出しているかを賞与計算の前に確認しておくことが大切です。

雇用保険料も忘れずに

賞与も雇用保険の対象となる賃金に含まれるため、雇用保険料も控除する必要があります。雇用保険料率は毎年4月に見直されることがあるため、賞与を支給する時点で最新の料率を確認し、月給と同じ料率を賞与額に乗じて計算します。健康保険・厚生年金と異なり上限額は設けられていないため、賞与額の全額が対象になる点も押さえておきましょう。

歩合給・指名料連動の賞与を設計するときの視点

美容室では、基本給に加えて指名本数や個人売上に応じた歩合給を組み込んでいるケースが多く、賞与も「基本給の◯か月分」といった一律の考え方だけでなく、指名料・店販売上などの実績を反映した設計にしたいというオーナーの声をよく聞きます。実績連動の賞与はスタッフのモチベーション向上につながる一方で、計算方法が複雑になるほど支給額の説明が難しくなり、不公平感につながるリスクもあります。評価対象期間・評価指標・計算式をあらかじめ就業規則や賃金規程に明記し、スタッフに事前に周知しておくことが、賞与を巡るトラブルを防ぐうえで重要です。

個人事業主のサロンで気をつけたいこと

個人事業として美容室を営んでいる場合、雇用しているスタッフへの賞与は通常どおり必要経費として計上できます。一方、配偶者や親族を「青色事業専従者」として給与を支払っている美容室では、専従者への賞与にも注意が必要です。青色事業専従者給与は、税務署に提出した「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載した金額の範囲内でなければ必要経費として認められません。届出書に賞与の記載や上限額の余裕がない状態で急に大きな賞与を支給すると、その超過分が経費として認められないことがあります。専従者に賞与を出す予定がある場合は、事前に届出内容を確認し、必要に応じて届出書の変更手続きを検討しましょう。青色事業専従者給与の考え方については、以下の記事もあわせてご参照ください。

美容室の青色事業専従者給与|妻への給与はいくらまで?届出と相場を解説

法人化しているサロンオーナー特有の注意点

法人化している美容室では、従業員への賞与とは別に、役員(オーナー)への賞与や、決算賞与(使用人賞与の未払計上)の扱いにも特有のルールがあります。

役員賞与は事前確定届出給与の届出が前提

法人税の計算上、役員への賞与を損金(経費)として認めてもらうには、原則として事前に「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出し、届け出たとおりの時期・金額で支給する必要があります。届出をしていない、あるいは届出額と実際の支給額・時期がずれた場合は、その役員賞与は全額が損金不算入となり、法人税の負担が増えてしまいます。届出書の提出期限は、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日とされており、「年末になって急に役員賞与を出す」という対応はできません。決算月や役員報酬の見直しを検討するタイミングで、あわせて役員賞与の方針も固めておくことが重要です。

従業員向け決算賞与を未払計上する場合の要件

決算月をまたいで従業員への賞与を検討している法人では、実際の支払いが翌期になっても、一定の要件を満たせば当期の損金として未払計上できる「決算賞与」の制度があります。主な要件は、(1)事業年度終了の日までに、支給を受けるすべての使用人に対して各人ごとの支給額を個別に通知していること、(2)通知した金額を、通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること、(3)その支給額について通知をした日の属する事業年度で損金経理をしていること、の3つです。いずれか一つでも欠けると当期の損金にできないため、決算賞与を検討する場合は決算月に入る前から準備を進める必要があります。

なお、社会保険の定時決定・随時改定の仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説していますのであわせてご確認ください。

美容室の社会保険料は9月から変わる|歩合給の定時決定・随時改定を税理士が解説

賞与を出す前のチェックリスト

確認項目 ポイント
支給回数 年3回以下か(4回以上は「報酬」扱いになり整理が変わる)
標準賞与額の計算 総支給額から1,000円未満を切り捨てているか
上限額 健康保険は年573万円、厚生年金は1回150万円を超えていないか
被保険者賞与支払届 支給日から5日以内に提出できる体制か
源泉徴収 前月給与を基準に賞与用算出率表で計算しているか
雇用保険料 賞与額全体に最新の料率を掛けて控除しているか
法人の場合 役員賞与は事前確定届出給与の届出・期限どおりの支給になっているか

年末の賞与支給とあわせて、令和8年分の年末調整でも基礎控除の見直しなど変更点がありますので、あわせて準備を進めておくと安心です。

美容室の年末調整、令和8年分はここが変わる|基礎控除引き上げと「178万円の壁」を税理士が解説

まとめ

美容室で賞与を検討する際は、(1)年3回以下の支給かどうかで社会保険上の扱いが変わること、(2)標準賞与額の計算と被保険者賞与支払届の5日以内提出、(3)前月給与を基準にした賞与用の源泉徴収計算、(4)法人の場合は事前確定届出給与の期限管理、という4つのポイントを押さえておくことが大切です。歩合給や指名料が中心のサロンでは「前月給与」の扱いが読みにくく、計算を誤ると年末調整や翌年の申告でも修正が必要になることがあります。賞与の支給を決めたら、早めに顧問税理士や社会保険労務士に相談し、具体的な金額・時期・手続きを確認しておくことをおすすめします。

この記事の内容でご不明な点や、自店の給与体系に合わせた賞与の具体的な金額・手続きについて相談したい場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。

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