美容室の設備投資、中小企業経営強化税制で節税できる?シャンプー台・スタイリングチェア購入時の即時償却・税額控除を税理士が解説
「そろそろシャンプー台を入れ替えたい」「人気の脱毛器や美顔器を導入して新メニューを始めたい」——そう思っても、いざ見積もりを取ると数十万円から数百万円という金額に、購入のタイミングを先延ばしにしているオーナーは少なくありません。設備投資は集客力アップにつながる一方で、資金繰りへの不安や「どうせ買うなら税金の負担も減らしたい」という悩みがつきまといます。
実は、一定の条件を満たす設備投資には、購入した年に多額の経費を計上できたり、法人税・所得税そのものを直接減らせたりする「中小企業経営強化税制」という制度があります。美容室・サロンのシャンプー台やスタイリングチェア、脱毛器などの設備投資でも対象になり得る制度ですが、事前の手続きが必要なため、購入直前に知っても間に合わないケースがあります。この記事では、制度の概要と美容室での活用イメージ、申請の流れと注意点を税理士が解説します。
中小企業経営強化税制とは
中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定を受けた事業者が、一定の設備を取得して事業に使った場合に、次のいずれかを選択できる制度です。
- 特別償却(即時償却):設備の取得価額から通常の減価償却費を差し引いた残額を、取得した年度に一括して経費にできる
- 税額控除:設備の取得価額の一定割合を、法人税額・所得税額から直接差し引ける
国税庁の案内によれば、税額控除の割合は取得価額の7%(資本金3,000万円以下の法人や個人事業主などの「特定中小企業者等」は10%)で、控除額は法人税額(個人事業主は所得税額)の20%が上限とされています。この上限を超えて控除しきれなかった分は、翌年度に1年間繰り越すことができます。
対象者は青色申告をしている中小企業者等で、資本金1億円以下の法人のほか、個人事業主も対象に含まれます。多くの美容室オーナーが該当する「個人事業主でも使える制度」という点は、意外と知られていません。
美容室の設備投資で対象になり得るもの
対象となる設備は主に「A類型」と「B類型」に区分されます。
| 類型 | 内容 | 手続きの特徴 |
|---|---|---|
| A類型 | 生産性が一定以上向上する設備として、工業会等の証明を受けたもの | 設備メーカーが発行する証明書が必要 |
| B類型 | 投資利益率が一定水準を満たす設備として経済産業局の確認を受けたもの | 投資計画について税理士等の事前確認と経済産業局の確認が必要 |
美容室の設備でイメージしやすい例としては、次のようなものが挙げられます(いずれも工具器具備品として1台または1基30万円以上が対象の目安です)。
- シャンプー台、スタイリングチェア一式の入れ替え
- 脱毛器・美顔器などの新規導入設備
- 予約管理・会計を一体化したPOSレジ・タブレットシステム
ただし、これらが実際に対象になるかどうかは、メーカーが工業会証明書の発行に対応しているか、投資利益率の要件を満たせるかなど、設備ごとの条件次第です。購入を検討している設備がある場合は、見積もり段階で販売代理店に「中小企業経営強化税制の証明書発行に対応しているか」を確認しておくとスムーズです。
中古設備・リースの扱いに注意
この制度は新品の設備が前提で、中古で購入した設備は対象になりません。居抜き物件を引き継いで中古のシャンプー台やスタイリングチェアをそのまま使う場合などは、この制度の対象外になる点に注意してください。また、リースを利用する場合は、所有権が最終的に自社に移る「所有権移転ファイナンスリース」等の一部の形態であれば対象になり得ますが、一般的な「所有権移転外ファイナンスリース」は税額控除のみが対象で即時償却はできず、月々のリース料を経費にするだけの「オペレーティングリース」はそもそも対象外です。リースでの導入を検討している場合は、契約前にリース会社にどの類型に当たるか確認しておくと安心です。
即時償却と税額控除、どちらを選ぶべきか
即時償却は初年度に一気に経費計上できるため、その年の利益が大きく黒字であれば税負担を大きく抑えられます。一方、税額控除は経費計上額そのものは通常の減価償却のままで、控除額を将来にわたって使える設備投資の「割引」のようなイメージです。
一般的には、その年だけ特別に利益が大きい場合は即時償却、毎年安定して利益が出ている場合や資金繰りより将来の税額を抑えたい場合は税額控除が有利になりやすいといわれます。ただし、開業して間もなく利益が少ない年や、赤字の年は即時償却のメリットを活かしきれないこともあります。どちらが有利かは利益水準や資金繰りの状況によって変わるため、購入前に税理士に試算してもらうことをおすすめします。
たとえば、個人事業主が対象設備を100万円で導入し、この制度を適用できたと仮定した場合のイメージは次のとおりです(要件を満たすことを前提とした単純化した試算であり、実際の適用可否・金額は個別の状況によって異なります)。
| 選択肢 | その年の効果のイメージ |
|---|---|
| 即時償却を選んだ場合 | 取得価額100万円から通常の減価償却費を差し引いた残額を、その年の経費として一括計上 |
| 税額控除を選んだ場合 | 個人事業主は特定中小企業者等に該当するため、取得価額の10%にあたる10万円を、その年の所得税額から直接控除(所得税額の20%が上限) |
即時償却は経費計上額そのものが増えるためその年の所得を大きく圧縮でき、税額控除は所得の圧縮はせずに税金そのものを直接減らせる点が異なります。どちらを選んでも翌年以降の減価償却費の扱いは変わってくるため、単年の節税額だけでなく数年単位でのシミュレーションをして判断することが大切です。
適用を受けるまでの流れと注意点
この制度を使うには、設備を取得する前に「経営力向上計画」の認定を受けておくのが原則です。おおまかな流れは次のようになります。
- 設備メーカー・販売代理店に、その設備が中小企業経営強化税制の証明書(A類型の工業会証明書など)の発行に対応しているか確認する
- 証明書等を踏まえて「経営力向上計画」を作成し、事業分野を所管する省庁(美容室の場合は経済産業局が窓口になることが一般的です)に申請する
- 計画の認定を受けたうえで、対象設備を取得し事業の用に供する
- 確定申告の際に、認定を受けた計画書の写しなどの必要書類を添付して申告する
認定までにはある程度の期間がかかるとされており、余裕をもったスケジュールで動く必要があります。設備を取得したあとに例外的に手続きできるケースも案内されていますが、要件や期限が細かく決まっているため、「買ってから考える」のではなく、購入を決めた時点で早めに税理士や認定支援機関に相談するのが安全です。
特に個人事業主の場合、この制度を適用できるのは設備を取得し事業の用に供した年(暦年)の申告分に限られます。年末に慌てて動いても手続きが間に合わない可能性があるため、年内の設備投資を考えているなら、9〜10月頃の今の時期から準備を始めておくことをおすすめします。なお、この制度の適用期限は令和9年(2027年)3月31日までに取得・事業供用した設備とされていますが、税制は改正で変わることがあるため、実際に適用する際は必ず国税庁や中小企業庁の最新の案内で確認してください。
少額減価償却資産の特例との違い
設備投資の節税というと、30万円未満の資産を一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」を思い浮かべる方も多いはずです。この特例は取得価額が比較的小さい設備向けで、経営力向上計画のような事前の認定手続きは不要という手軽さがある一方、対象となる金額の上限が決まっている点が異なります。少額減価償却資産の特例の最新の要件については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
美容室の少額減価償却資産の特例|設備投資の節税ルールを税理士が解説
まとまった金額のシャンプー台やスタイリングチェアの入れ替え、複数店舗展開に向けた設備投資など、少額減価償却資産の特例だけではカバーしきれない規模の投資を検討している場合に、中小企業経営強化税制が選択肢として浮かんできます。多店舗展開を見据えている方は、次の記事もあわせて資金計画の参考にしてください。
美容室の2店舗目出店でかかる税金と資金調達|多店舗展開の税務を解説
資金繰りとあわせて考えたい備え
設備投資は節税効果があるとはいえ、手元資金がなければ実行できません。急な故障や修繕、繁忙期の一時的な資金不足に備える手段として、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)のような制度を組み合わせて資金繰りの土台を整えているオーナーもいます。
美容室オーナーの経営セーフティ共済(倒産防止共済)活用術|節税と資金繰り対策を税理士が解説
大きな設備投資を金融機関からの借り入れで行う場合は、事業計画の作り方や審査のポイントも押さえておくと安心です。
美容室の創業融資|日本政策金融公庫の審査に通るコツと自己資金の目安
まとめ
中小企業経営強化税制は、シャンプー台やスタイリングチェア、脱毛器といった美容室の設備投資でも、条件を満たせば即時償却や税額控除という形で節税につながる可能性がある制度です。ただし、対象となる設備の要件や、経営力向上計画の認定という事前手続きがあるため、「設備を買ってから慌てて調べる」のでは間に合わないことがあります。年内に大きな設備投資を予定している方は、早めに設備メーカー・販売代理店と税理士の両方に相談し、証明書の発行可否や申請スケジュールを確認しておきましょう。制度の要件や適用期限は税制改正によって変わることがあるため、実際に活用する際は必ず最新の情報を確認し、自店のケースに当てはまるかどうかは専門家の判断を仰ぐことをおすすめします。
この記事の内容でご不明な点や、設備投資のタイミング・資金計画について自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。
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