美容室の敷金・保証金・礼金・更新料の経理処理|返還されるお金と返らないお金の違い・原状回復費の考え方を税理士が解説
「店舗の契約書に『敷金』『保証金』『礼金』『更新料』と並んでいるけれど、帳簿ではどう処理すればいいのか分からない」「退去するときに敷金から原状回復費が引かれたが、これは経費になるのか」。美容室やネイル・まつエクサロンのオーナーから、こうしたご相談をよくいただきます。
店舗の賃貸借にまつわるお金は、金額が大きいわりに、日々の記帳では「とりあえず地代家賃」に入れてしまいがちです。しかし、返ってくるお金と返ってこないお金が混ざっているため、処理を誤ると利益や消費税がずれてしまいます。
年末に向けて契約更新や移転、2店舗目の出店を考える方も増える時期です。この記事では、サロンの店舗賃貸借で生じる敷金・保証金・礼金・更新料・原状回復費の税務上の考え方を、整理してお伝えします。
1. まず確認したい「返ってくるお金」と「返ってこないお金」
店舗を借りるときに大家さんへ支払うお金は、名称がバラバラでも、税務上は大きく2つに分けて考えます。
- 契約終了時に返還されるお金(敷金・保証金のうち預けておく部分):経費ではなく、資産として帳簿に残す
- 返還されないお金(礼金・権利金・更新料・敷引き・保証金の償却部分など):費用または繰延資産として処理する
契約書に「保証金」とあっても、そのうち何割かが「解約時に償却(返還しない)」と定められている例は少なくありません。名称ではなく、契約書の中身(返還の有無と金額)で判断することが出発点です。まず手元の賃貸借契約書で、返還条件を確認してみてください。
契約書でチェックしたい項目
- 敷金・保証金の総額と、そのうち返還されない(償却される)金額
- 礼金・権利金の有無と金額
- 契約期間と、更新時に更新料が必要かどうか
- 原状回復の範囲(スケルトン返しか、現状のままで可か)
- 貸主が個人か法人か、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録があるか
2. 敷金・保証金(返還されるもの)の処理
契約終了時に全額または一部が返ってくる敷金・保証金は、支払った時点では経費にしません。貸借対照表上の資産として、「敷金」「差入保証金」などの勘定科目で計上します。
消費税の面でも、返還されるものは資産の譲渡等の対価にあたらないため、課税対象外(不課税)です。国税庁のタックスアンサー(No.6225)でも、事業用の建物の賃貸借で、契約終了時に返還されるものは課税対象外とされています。
| 項目 | 帳簿の処理 | 消費税 |
|---|---|---|
| 返還される敷金・保証金 | 資産(敷金・差入保証金) | 課税対象外 |
| 返還されない部分(礼金・権利金・敷引きなど) | 費用または繰延資産 | 事業用なら課税仕入れ(後述) |
| 更新料 | 費用または繰延資産(契約内容による) | 事業用なら課税仕入れ(後述) |
| 毎月の家賃・共益費 | 地代家賃 | 事業用なら課税仕入れ |
「敷金は経費にならない」ことのメリット・デメリット
敷金を支払っても、その年の利益は減りません。開業や移転の際、「内装工事と敷金で数百万円出ていったのに、決算書を見ると利益が出ていて税金がかかる」という状況は珍しくありません。資金繰りと損益が一致しない代表的な場面ですので、納税資金も含めて計画しておきましょう。借入金の返済も同じ構造ですので、資金繰りの考え方は美容室の借入金返済は経費になる?元金と利息の仕訳の記事も参考になります。
3. 礼金・権利金・敷引き(返還されないもの)の処理
返還されないお金は、支払った年にそのまま全額を経費にできるとは限りません。建物を賃借するために支払う権利金・礼金などは、税法上の「繰延資産」にあたる場合があります。繰延資産とは、支出の効果が1年以上に及ぶ費用を、いったん資産として計上し、一定期間にわたって費用化していくものです。
国税庁のタックスアンサー(No.5460・法人税)には、建物賃借のための権利金等の償却期間が次のように示されています。
- 建物の新築時に支払った権利金等で、その額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、実際上その建物の存続期間中は賃借できる状況にあるとき:建物の耐用年数の10分の7に相当する年数
- 上記以外で、明渡しの際に借家権として転売できる取決めや慣習があるとき:賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する年数
- 上記以外:5年(ただし、契約期間が5年未満で、更新時に再び権利金等の支払いが必要なことが明らかな場合は、その契約期間)
一般的な居抜きや貸店舗の礼金・権利金は、上記の「5年」または「契約期間」に当てはまるケースが多いと考えられますが、実際にどれに該当するかは契約の内容次第です。判断に迷う場合は、契約書を持って税理士にご相談ください。
少額の場合は一時の費用にできることも
法人の場合、繰延資産となる金額が20万円未満であれば、支出した事業年度に全額を損金として処理できる取扱いがあります。個人事業主の場合も、繰延資産の考え方は同様に存在しますが、償却方法や少額の取扱いの詳細は法人と異なる場合がありますので、最新の国税庁の案内や所得税の通達で確認するか、税理士にご確認ください。
仲介手数料は?
不動産会社に支払う仲介手数料は、原則として「支払手数料」などの費用として処理する例が一般的です。ただし、実質が権利金に近い性質の支出である場合は、繰延資産として扱う可能性もあります。契約の実態に応じた判断が必要です。
4. 更新料の処理と、年末に気をつけたいこと
店舗の賃貸借契約では、2年ごとなどに更新料(家賃の1か月分程度など、契約により異なります)が必要な物件があります。更新料も、返還されないお金ですので、費用または繰延資産として処理します。
更新料の処理で押さえておきたいのは、次の点です。
- 更新料は「家賃を前払いしている」のか「更新という権利の対価」なのか、契約書の定めで性質が変わる
- 金額が大きい場合は、繰延資産としていったん計上し、期間に応じて償却していくケースがある
- 更新手続きが年をまたぐ場合、支払日と更新契約の効力発生日のどちらでその年の処理をするかを、あらかじめ確認しておく
12月に更新料を支払うと「今年の経費になる」と考えがちですが、更新後の期間が翌年以降に及ぶ以上、全額をその年の経費にできるとは限りません。家賃の前払いを年内の経費にしたい場合は、短期前払費用の特例の要件(継続して同じ処理を続けること等)をよく確認し、「節税のために1年分を払う」という発想で動かないようご注意ください。
5. 消費税とインボイス:事業用物件の家賃・更新料はどう扱う?
消費税は、貸すものが「住宅」か「事業用」かで扱いが分かれます。国税庁のタックスアンサー(No.6225)によれば、次のとおりです。
- 事業用の建物(店舗・事務所など):返還しない保証金・権利金・敷金・更新料は、権利の設定の対価として課税対象。つまり、支払う側から見ると課税仕入れになる
- 住宅:返還しないものも非課税
- 契約終了時に返還されるものは、事業用でも課税対象外
美容室で特に注意したいのが、自宅兼サロンやマンションの一室で営むプライベートサロンです。契約が居住用で結ばれていると、家賃は非課税で、消費税の仕入税額控除の対象になりません。また、店舗用の賃貸借契約でも、自宅と店舗が同じ建物にある場合は、家賃の事業用割合(家事按分)の考え方が関わります。
家賃のインボイス対応
消費税の課税事業者(本則課税)の方は、家賃や更新料について仕入税額控除を受けるには、原則として貸主から適格請求書(インボイス)を受け取る必要があります。貸主が個人のオーナーで、インボイスの登録をしていない場合は、仕入税額控除の取扱いが変わります。経過措置の控除割合や期限は制度改正で見直されていますので、最新の国税庁の案内を確認してください。詳しくはインボイス経過措置の見直しと美容室への影響の記事もご覧ください。
なお、簡易課税や2割特例を選択している場合は、実際の仕入れにかかった消費税ではなく、売上にかかる消費税額を基にした計算になりますので、家賃にかかる消費税の有無が納税額に直接影響しません。ご自身がどの方式かは、毎年の申告書で確認しておくと安心です。
6. 内装工事・造作と原状回復費
入居時の内装工事
賃貸物件でシャンプー台の配管工事や床・壁・照明工事などを行うと、工事費は多額になります。この費用は、内容によって「建物附属設備」などの固定資産(減価償却)、または修繕費、または繰延資産などに区分されます。どの区分になるかによって、費用化のスピードが変わります。見積書や請求書は、工事の内訳が分かる形で保管しておきましょう。
退去時の原状回復費
退去時の原状回復工事の費用は、実際に支出した(または債務が確定した)事業年度の費用とするのが基本です。「いずれ退去するときにかかるから」といって、将来の原状回復費を見込みで早めに費用に計上することは、税務上は原則として認められません(引当金の制限)。
一方、敷金から原状回復費が差し引かれて返還される場合は、帳簿上は次のように整理します。
- 預けていた敷金(資産)を取り崩す
- 原状回復費を費用として計上する
- 差額が実際に返ってくる(入金される)
敷金が全額返ってくると思い込んで記帳していたのに、精算書で大幅に差し引かれていた、という例は珍しくありません。精算書を受け取ったら、内訳(原状回復費・未払家賃・償却額)に分けて処理しましょう。
退去・移転時の除却
退去や移転のときに、内装やシャンプー台などを撤去・処分する場合は、除却損などの処理が必要になります。詳しい考え方は美容室の設備を処分するときの税務の記事で解説しています。また、移転を機に多店舗展開を検討されている場合は、2店舗目出店でかかる税金と資金調達もあわせてご覧ください。
7. 勘定科目の整理表
| 支出の種類 | よく使う勘定科目 | ポイント |
|---|---|---|
| 敷金・保証金(返還あり) | 敷金/差入保証金 | 経費にならない。退去時の精算で取り崩す |
| 敷引き・保証金の償却部分 | 長期前払費用(繰延資産)など | 契約書の償却条項を確認 |
| 礼金・権利金 | 長期前払費用(繰延資産)など | 償却期間は契約内容で判断。少額なら一時の費用にできる取扱いあり |
| 更新料 | 長期前払費用/地代家賃 | 性質と金額で判断 |
| 仲介手数料 | 支払手数料 | 実質が権利金に近い場合は要確認 |
| 原状回復費 | 修繕費など | 支出した事業年度の費用。敷金精算書の内訳を分けて記帳 |
なお、賃貸物件に設置した内装・設備にも、固定資産税(償却資産税)がかかる場合があります。償却資産税の解説記事も参考にしてください。
8. 契約前・更新前に確認しておきたいチェックリスト
- 敷金・保証金の「返還される部分」と「償却される部分」が、契約書で明確に分かれているか
- 礼金・権利金・更新料は、金額と支払時期がいつか
- 家賃にかかる消費税の扱い(事業用契約か居住用契約か)
- 貸主がインボイスの登録事業者か(請求書・領収書に登録番号があるか)
- 原状回復の範囲(スケルトン返しなら見積りをとっておく)
- 契約期間と、更新のタイミング(決算や資金繰りの山と重なっていないか)
- 支払った全額について、請求書・領収書・精算書を保管しているか
契約を結ぶ前であれば、条件の交渉や資金計画への織り込みもできます。署名前に税理士へ見せていただくのがおすすめです。
まとめ
- 店舗の賃貸借で支払うお金は、返ってくるお金(敷金・保証金)は資産、返ってこないお金(礼金・権利金・更新料など)は費用または繰延資産と分けて考える
- 名称ではなく、契約書の返還条件で判断する
- 消費税は、事業用なら返還しないものが課税、返還されるものは対象外。住宅は返還しないものも非課税
- 原状回復費は、実際に支出した年度の費用が基本。将来分を見込みで先に費用にすることは原則できない
- インボイスの経過措置など、年度で変わる制度は最新の国税庁の案内で確認する
なお、本記事の内容は一般的な考え方を整理したもので、個々の契約内容や、個人事業か法人か、課税方式がどれかによって処理は変わります。実際の処理は、契約書や精算書をご確認のうえ、税理士にご相談ください。
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