美容室の設備、12月に買うと今年の経費になる?事業供用日と月割償却の落とし穴を税理士が解説
「今年は利益が出そうだから、年内にシャンプー台を入れ替えようか」「12月に買えば、今年の経費にできるんですよね?」――10月を過ぎると、美容室オーナーさんからこうしたご相談が一気に増えます。
ところが、設備の購入は「買った日」ではなく「使い始めた日」と「月割り」で経費の額が決まります。年末ギリギリに高額な設備を買っても、今年の経費になるのは思ったよりずっと少ない、というケースは珍しくありません。節税のつもりで現金だけが先に出ていき、資金繰りが苦しくなってしまっては本末転倒です。
この記事では、美容室・ヘアサロンの設備投資を題材に、年内に設備を買うときの「事業供用日」の考え方、月割りの計算、金額別の経費化ルール、年末に慌てないためのチェックポイントを整理します。
1. まず押さえたい基本:高額な設備は「買った年に全額」経費にならない
シャンプー台、スタイリングチェア、ミラー、ワゴン、スチーマー、エアコン、レジ周りの機器など、美容室で使う設備の多くは「減価償却資産」に当たります。国税庁のタックスアンサーでも、事業用の建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などが減価償却資産とされており、時の経過で価値が減るこれらの資産は、購入代金を一度に経費にするのではなく、耐用年数にわたって少しずつ経費にしていくのが原則です。
つまり「100万円のシャンプー台を12月に買った=今年100万円の経費」にはなりません。原則は、毎年の償却費として少しずつ計上していきます。
例外:金額が小さい資産は、使い始めた年に全額経費にできる場合がある
一方で、取得価額が小さい資産には、まとめて経費にできる特例があります。個人事業主の場合の国税庁の案内(No.2100)では、次のように整理されています。
- 使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満の資産:業務に使い始めた年分の必要経費にできる
- 取得価額が10万円以上20万円未満の資産:一括償却資産として、取得価額の合計の3分の1ずつを、業務に使い始めた年以後3年間にわたって必要経費にできる(要件あり)
- 青色申告者で一定の要件を満たす場合:取得価額が一定額未満の資産について、年間300万円までを業務に使い始めた年分の必要経費にできる特例がある(対象となる取得期間や金額の上限は取得時期によって異なる)
この「青色申告者の少額減価償却資産の特例」は、令和8年度税制改正で取得価額の上限が見直されています。詳しくは美容室の少額減価償却資産の特例で解説していますので、購入前に最新の内容をご確認ください。適用には青色申告であることなど条件があるため、白色申告の方や条件を満たさない方は使えない点にも注意が必要です。
2. 「事業供用日」が経費計上のカギ
少額資産の特例も一括償却も、基準になっているのは「業務の用に供した年分」、つまり実際に仕事で使い始めた年です。ここが「買った日」ではない点が、年末の設備購入でいちばん誤解されやすいポイントです。
注文した・代金を払った=今年の経費、とは限らない
一般に、減価償却は、その資産を事業に使い始めた時点から始まります。たとえば次のようなケースでは、「今年の経費になる」と判断するには慎重な確認が必要です。
- 12月に注文して代金も支払ったが、納品・設置が1月になった
- 12月に納品されたが、設置工事が終わらず、お客様への施術では1月から使い始める
- リニューアル工事中で、設備は入っているが、店舗の営業再開は年明けになる
- 予備として購入し、倉庫にしまったまま、まだ使っていない
こうした場合、その年の経費にできるかどうかは、実際の使用状況によって変わります。
3. 年の途中で買うと、1年分の償却費にはならない(月割り)
次に、償却費の計算です。国税庁の案内(No.2106)では、年の途中で取得した場合の償却費は、1年分の金額を12で割り、その年に業務で使用した月数を掛けて計算するとされています。
ここで、わかりやすい仮の数字で見てみましょう。
- 取得価額:60万円のシャンプー台
- 耐用年数:5年と仮定(定額法の償却率は0.200)
- 年間の償却費:60万円 × 0.200 = 12万円
| 使い始めた時期 | その年に使用した月数 | その年の償却費の目安 |
|---|---|---|
| 1月から使い始めた | 12か月 | 12万円 |
| 7月から使い始めた | 6か月 | 6万円 |
| 12月から使い始めた | 1か月 | 1万円 |
| 翌年1月から使い始めた | 0か月(今年は0円) | 0円 |
※上記は計算の仕組みを理解していただくための仮の例です。実際の耐用年数や償却率は、資産の種類・中古か新品かなどで異なります。月数の数え方などの細かい取り扱いは、国税庁の最新の案内や税理士にご確認ください。
この表のとおり、60万円の設備を12月に購入して使い始めても、今年の経費になるのは1万円程度です。一方で、現金は60万円(借入の場合は返済負担)が出ていきます。「節税のために年末に買う」ことのメリットが、思ったより小さいことがおわかりいただけると思います。
償却方法は「届出」で決まる
償却方法には定額法と定率法があります。定額法は毎年ほぼ同額、定率法は初年度の償却費が大きく、年々小さくなっていく方法です。個人事業主の場合、償却方法の選定には、新たに業務を始めた年の翌年3月15日までの届出が必要で、届出がなければ法定の方法(一般的には定額法)で計算します(国税庁No.2100)。方法を変更するときも、変更しようとする年の3月15日までに申請して承認を受ける必要があります。
「年末になってから定率法に変えて、今年の経費を増やそう」ということはできません。償却方法は、事前の届出で決まるものとして考えておきましょう。
4. 取得価額に含められる費用・含められない費用
償却の対象になる「取得価額」は、本体の価格だけではありません。国税庁の案内では、購入代金(引取運賃、運送保険料、購入手数料等を含む)と、業務の用に供するための費用の合計額とされています。
美容室の場合、たとえば次のような費用が関係します。
- シャンプー台の本体価格と、搬入費・据付費
- 給排水の接続や電気工事など、設置に直接かかった費用
- 購入時に支払った手数料や運賃
これらが取得価額に含まれると、10万円未満・20万円未満といった「金額による判定」に影響する場合があります。
消費税の経理方式で、判定する金額が変わる
金額判定は、税込経理の場合は消費税を含めた金額、税抜経理の場合は消費税を含めない金額で行います。免税事業者の場合は、税込経理になります(国税庁No.2100)。「税込で見れば10万円を超えるが、税抜なら10万円未満」といった場面があり得るため、自店の経理方式を確認しておきましょう。
5. 美容室ならではの注意点
① 面貸し・業務委託のスタッフに設備を提供している場合
国税庁の案内(No.2100)では、令和4年4月1日以降に取得して貸付けの用に供した資産(主要な業務として行われる貸付けを除く)は、少額減価償却資産・一括償却資産の特例などの対象外とされています。面貸しサロンで、設備を「席」として使ってもらう形態や、チェアなどを個別に貸し出す形態は、契約内容によって評価が変わる可能性があります。設備を購入する前に、面貸し契約の内容と合わせて確認しておくと安心です。
② 中古の設備を購入するとき
居抜き物件や中古の機器を購入する場合、耐用年数は新品と同じとは限りません。国税庁の案内(No.5404)では、中古資産の耐用年数は、法定耐用年数の全部を経過した資産は法定耐用年数の20%、一部を経過した資産は「(法定耐用年数−経過年数)+(経過年数×20%)」という簡便法で見積もれるとされています(1年未満の端数は切り捨て、2年未満になる場合は2年)。ただし、事業の用に供するためにかけた資本的支出が取得価額の50%を超える場合は適用できないなど、条件があります。また、この見積りは使い始めた年に行う必要があります。
③ 購入後は「償却資産税」の対象になることがある
事業用の設備は、固定資産税の仲間である「償却資産税」の対象になる場合があります。設備を増やすと、翌年以降の税負担にも関わるため、購入時にあわせて確認しておくと安心です。詳しくは美容室の「償却資産」とはの記事をご覧ください。
6. 「リース」「購入」「補助・優遇制度」も比べてから決める
年末に慌てて購入を決めるより、いくつかの選択肢を並べて比べるほうが、結果的に手元資金を守れます。
- 購入:所有できる。償却費として経費化。まとまった現金や借入が必要
- リース:初期費用を抑えやすい。月々のリース料の経理や、契約内容による取扱いの違いに注意(詳しくは美容室の設備投資「リース」か「購入」か)
- 税制の優遇制度:要件を満たせば、即時償却や税額控除が使える制度もある。ただし対象設備や事前の手続き、期限に決まりがある(詳しくは中小企業経営強化税制の記事)
こうした制度は、対象となる設備・事前の確認書・適用期限などの要件が細かく定められています。「年末に買ってから調べる」のではなく、「購入前に確認する」ことが重要です。なお、制度の内容は改正されることがあるため、最新の様式や国税庁・中小企業庁の案内を必ずご確認ください。
7. 年末の設備購入チェックリスト
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 使い始める日 | 年内に納品・設置・使用開始できるか。使い始めた日が分かる記録を残す |
| 取得価額 | 本体価格のほか、搬入・設置費も含めて判定。税込経理か税抜経理かも確認 |
| 金額による特例 | 10万円未満・20万円未満・青色申告の特例など、どれが使えるか |
| 月割りの試算 | 今年の経費になる額はいくらか。現金の支出とのバランスは適切か |
| 償却方法の届出 | 届出の有無、期限の確認 |
| 翌年以降の負担 | 償却資産税、リース料やローン返済、メンテナンス費用 |
年内の経費の締め方全般については、美容室の年末の経費の締め方もあわせてご覧ください。
8. 「節税のための設備購入」で気をつけたいこと
最後に、いちばん大事な考え方をお伝えします。経費を増やすために使ったお金は、その分の税金が減るだけで、手元に残るお金そのものは減ります。たとえば、経費にできる金額が数万円であれば、税金が減る効果もごくわずかです。
本当に必要な設備を、必要なタイミングで入れる。そのうえで、使い始める時期や特例の使い方を工夫する。この順番が、サロン経営を安定させる基本です。
なお、設備を入れ替える際に古い設備を処分する場合は、除却損など別の税務処理が関わります。あわせて美容室の設備を処分するときの税務も確認しておきましょう。
まとめ
- 高額な設備は、買った年に全額が経費になるわけではなく、耐用年数にわたって減価償却するのが原則
- 経費化の基準は「買った日」ではなく「事業に使い始めた日(業務の用に供した年分)」
- 年の途中で使い始めた場合、償却費は「1年分÷12×使用した月数」で計算するため、12月購入の経費は小さくなりやすい
- 10万円未満・20万円未満・青色申告の特例など、金額に応じた扱いがある。ただし貸付け用の資産などは対象外となる場合がある
- 償却方法は事前の届出で決まる。年末になってから方法を変えることはできない
- 節税だけを目的とした購入は避け、リースや優遇制度も含めて、購入前に比較・確認する
税制は毎年のように改正があります。金額や期限、制度の適用可否は、国税庁の最新の案内や、顧問の税理士にご確認のうえ、ご自身のサロンの状況に合わせて判断してください。
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