美容室の労働保険料「第2期」納付は11月2日|歩合給・面貸しスタッフの賃金総額の数え方を税理士が解説
「労働保険の手続きは6月と7月に済ませたはずなのに、また支払いの案内が届いた」――スタッフを雇っている美容室オーナーから、こうした声をよく伺います。社会保険料や消費税の納税、冬のボーナス資金の準備に追われる時期だからこそ、労働保険料の「第2期」納付をうっかり見落としてしまうケースは少なくありません。
労働保険料は、社会保険料とは加入の仕組みも保険料の計算方法も異なります。歩合給や指名手当、面貸し・業務委託スタッフの扱いを誤ると、賃金総額の計算がずれてしまうこともあります。本記事では、労働保険料の延納スケジュールと、美容室特有の賃金の数え方について、税理士の視点から整理します。
労働保険料の「年度更新」と延納のしくみ
労働保険とは、労災保険と雇用保険を合わせた総称です。スタッフを1人でも雇用していれば、原則として労災保険の適用事業となり、一定の要件を満たすパート・アルバイトを雇っていれば雇用保険にも加入する必要があります。
労働保険料は年に1度、前年度の確定保険料を精算しつつ、当年度の概算保険料を申告・納付する「年度更新」という手続きで納めます。令和8年度の年度更新の申告期間は令和8年6月1日から7月10日までで、多くの美容室はこのタイミングで手続きを終えているはずです。
ただし、概算保険料の額が一定基準を超える場合は、保険料を3回に分けて納める「延納」を選択できます。延納を選んだ美容室は、次の第2期の納付期限が近づいています。
| 区分 | 令和8年度の納付期限 | 備考 |
|---|---|---|
| 第1期 | 令和8年7月10日 | 年度更新の申告と同時に納付 |
| 第2期 | 令和8年11月2日 | 本来の期限は10月31日(土)のため、翌開庁日の月曜日にずれています |
| 第3期 | 令和9年2月1日 | 本来の期限は1月31日(日)のため、翌開庁日にずれています |
このように、期限が土日にあたる年は翌開庁日が納期限になります。カレンダー上の「10月31日」「1月31日」だけを覚えていると勘違いしやすいため、必ず労働局から届く納付書や口座振替のお知らせで実際の期日を確認しておきましょう。
なお、延納が認められるのは、概算保険料の額が40万円以上(労災保険・雇用保険のいずれか一方のみが成立している事業の場合は20万円以上)のときです。労働保険事務組合に事務委託している場合は、この金額基準にかかわらず延納が可能です。自店の概算保険料がいくらだったか、7月に提出した申告書の控えで確認しておくと安心です。
美容室の「賃金総額」、どこまで含める?
労働保険料は、「賃金総額×保険料率」で計算されます。ここでいう賃金総額とは、基本給だけでなく、労働の対償として支払うもの全般を指します。美容室の給与体系は歩合給や各種手当が絡むため、次のような賃金を含め忘れていないか、年度更新のたびに確認しておきたいところです。
- 基本給・時給に基づく給与
- 歩合給・技術手当・指名手当
- 通勤手当(非課税限度額を超える部分も含め、原則として賃金に該当します)
- 賞与・冬季一時金など
- 役職手当・皆勤手当などの各種手当
歩合給を中心とした賃金の考え方は、社会保険料の定時決定・随時改定とも共通する部分があります。あわせて、美容室の社会保険料は9月から変わる|歩合給の定時決定・随時改定を税理士が解説もご確認ください。
面貸し・業務委託の美容師は賃金総額に含めない
一方で、面貸しやフリーランス契約で稼働する業務委託の美容師は、雇用契約を結ぶ「労働者」には該当しないため、原則として労働保険(労災保険・雇用保険)の対象外であり、賃金総額にも含めません。ただし、業務委託美容師自身が万一のケガに備えたい場合は、労災保険の特別加入制度を利用できる場合があります。制度の詳細は、業務委託・面貸し美容師の労災保険|2024年11月開始の特別加入制度をわかりやすく解説で解説していますので、スタッフから質問を受けた際の参考にしてください。
店舗によっては、雇用スタッフと業務委託スタッフが混在していることも珍しくありません。年度更新の賃金集計を給与ソフトから機械的に抽出する場合、業務委託分の報酬まで賃金総額に含めてしまっていないか、念のため確認しておきましょう。
パート・アルバイトスタッフの扱い
労災保険は、雇用形態にかかわらず、雇用しているスタッフ全員が対象です。シャンプー専門のパートスタッフや、週数日だけのアシスタントであっても、賃金総額に含める必要があります。
一方、雇用保険は「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込みがある」パート・アルバイトが加入対象です。短時間勤務のスタッフが多い美容室では、雇用保険の加入要件を満たすかどうかをスタッフごとに確認し、対象者の賃金だけを雇用保険分の計算に含めるという整理が必要になります。
概算保険料はいくらになる? 簡単な試算例
労働保険料の仕組みが分かりにくいのは、賃金総額の見込み額に保険料率を掛けるだけの単純な計算でありながら、その「見込み額」の作り方が美容室ごとに異なるためです。ここでは、スタイリスト2名・アシスタント1名を雇用し、歩合給や残業代を含めた年間の賃金総額の見込みが960万円になるケースで、概算保険料のイメージをつかんでみましょう。
| 項目 | 料率 | 年間保険料の目安 |
|---|---|---|
| 労災保険料(960万円×1000分の3) | 0.3% | 2万8,800円 |
| 雇用保険料(960万円×1000分の8.5・事業主負担分) | 0.85% | 8万1,600円 |
| 雇用保険料(労働者負担分は給与から天引き) | 0.5% | 4万8,000円(天引き) |
この例では、事業主が実際に納付する概算保険料はおよそ11万円前後となり、延納が使える40万円の基準には届きません。歩合給が好調でスタッフの給与水準が上がったり、スタッフの人数が増えたりすると概算保険料も比例して増えるため、開業当初は延納の対象外だった美容室が、数年後には延納を選べる規模になっていることもあります。毎年の年度更新のタイミングで、自店の概算保険料が延納の基準を超えているかどうかを確認しておくとよいでしょう。
また、残業代や休日出勤の割増賃金も賃金総額に含まれます。歩合給スタッフの残業時間の管理や36協定の締結状況によって、年間の残業代総額が変わり、結果として労働保険料にも影響します。残業や36協定の考え方については、美容室の36協定とは?時間外労働の上限規制と歩合給・面貸しスタッフの残業リスクを税理士が解説もあわせてご覧ください。
令和8年度の保険料率はどれくらい?
理容業・美容業は、労災保険率の分類上「その他の各種事業」に区分されており、労災保険率は1000分の3(0.3%)です。令和8年度の労災保険率は令和7年度から変更ありません。
雇用保険料率(一般の事業)は、令和8年4月から令和9年3月までの1年間、次のとおりです。
| 区分 | 令和8年度 | 参考:令和7年度 |
|---|---|---|
| 労働者負担 | 1000分の5(0.5%) | 1000分の5.5(0.55%) |
| 事業主負担 | 1000分の8.5(0.85%) | 1000分の9(0.9%) |
| 合計 | 1000分の13.5(1.35%) | 1000分の14.5(1.45%) |
令和8年度は、令和7年度と比べて雇用保険料率がわずかに引き下げられています。給与明細で天引きしている雇用保険料の料率も、4月分の給与から切り替わっているか、念のため確認しておくとよいでしょう。なお、雇用保険料率は法改正や国会審議のタイミングによって年度途中に見直される可能性もあるため、正確な料率は必ずハローワークや厚生労働省の最新の案内で確認してください。
納付が遅れそうなときはどうなる?
冬のボーナス資金や仕入れの支払いが重なる時期に、労働保険料の納付が後回しになってしまうこともあるかもしれません。納期限を過ぎてもすぐに延滞金が発生するわけではなく、その後届く督促状に記載された指定期限までに完納すれば、延滞金は徴収されないのが原則です。
ただし、指定期限を過ぎてしまうと延滞金が発生するほか、督促を無視し続けると財産の差押えなど強制的な手続きに進む可能性もあります。資金繰りが厳しい場合は、放置せずに早めに所轄の労働局や労働基準監督署に相談することをおすすめします。
美容室オーナーが今からできる準備
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 納付期限の確認 | 令和8年度の第2期は11月2日。口座振替の場合は振替日も確認する |
| 資金繰りへの計上 | 冬季賞与や仕入れの支払いと重ならないよう、資金繰り表に反映しておく |
| 賃金総額の再確認 | 歩合給・指名手当・通勤手当を含めているか、業務委託分を誤って含めていないか |
| スタッフ区分の整理 | 雇用契約のスタッフと、面貸し・業務委託のスタッフを名簿で区分できているか |
| 雇用保険の加入対象確認 | パート・アルバイトが週20時間以上・31日以上の雇用見込みに該当するか |
労働保険料の負担は、スタッフの歩合給や賞与の水準によって年ごとに変動します。年度更新の時期だけでなく、給与体系を見直すタイミングでも、労働保険料への影響を意識しておくと、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
まとめ
労働保険料は、社会保険料とは別の制度として、年に1度の年度更新と、必要に応じた延納によって納付します。令和8年度に延納を選んだ美容室は、第2期の納付期限が令和8年11月2日に迫っています。歩合給や指名手当を含めた賃金総額の算定、面貸し・業務委託スタッフの取り扱い、パート・アルバイトの雇用保険加入要件など、美容室特有の判断が必要な場面も多いため、不安な点があれば早めに専門家に確認しておくことをおすすめします。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。
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