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美容室の「無期転換ルール」とは?契約社員・アシスタントが5年働いたときの対応と2024年4月法改正を税理士が解説

「アシスタントには1年契約を毎年更新してもらっている」「契約社員のスタイリストが、気づけば5年目に入っていた」——美容室では人の入れ替わりが多い一方で、長く働いてくれる契約社員やアシスタントも少なくありません。しかし、有期雇用契約を更新し続けていると、ある時点でスタッフ側に「無期労働契約への転換」を求める権利が発生することをご存知でしょうか。

「うちは正社員採用が中心だから関係ない」と思っていても、パートやアルバイトのシャンプー担当・受付スタッフを契約更新で雇い続けているケースでは、知らないうちに対象になっていることがあります。この記事では、美容室オーナーが押さえておきたい「無期転換ルール」の基本と、2024年4月から強化された労働条件明示のルール、実務対応のポイントを整理します。

1. 無期転換ルールとは

無期転換ルールは、労働契約法第18条に基づく制度で、同一の使用者との間で有期労働契約が更新され、通算契約期間が5年を超えた場合に、労働者からの申込みによって期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるというものです。平成25年(2013年)4月1日以降に開始した有期労働契約から通算されます。

ポイントは、無期転換は自動的に発生するものではなく、あくまで「労働者からの申込み」があって初めて成立する点です。ただし、申込権が発生した後にスタッフから申込みがあれば、事業主側はこれを拒否できません。

対象になるのは「雇用契約」であって「業務委託」ではない

美容業界では、面貸しや業務委託の形で契約しているスタイリストも多くいます。無期転換ルールが適用されるのはあくまで労働基準法・労働契約法上の「労働者」=雇用契約を結んでいる人に限られ、業務委託契約のスタイリストは対象外です。ただし、契約の名称が「業務委託」であっても、実態として時間・場所の拘束や指揮命令があれば「雇用」とみなされ、税務調査や労働基準監督署の調査で給与認定されるリスクがあります。この境目については、美容室の業務委託が外注費でなく給与認定されるリスク|税務調査の判断基準も参考にしてください。

具体例で見る「気づかないうちに5年」のケース

たとえば、専門学校卒業後にアシスタントとして入社し、1年契約を毎年更新しているスタッフがいるとします。本人がスタイリストデビューし、指名売上や店販の歩合が付くようになるまでには数年かかることも珍しくありません。契約更新の事務作業がルーティン化していると、「5回目の更新」を過ぎたタイミングに気づかないまま、6年目・7年目に突入しているケースが実務ではよく見られます。無期転換の申込みは労働者側の権利として何年経っても消滅するものではないため、後になってまとめて申込みを受けるよりも、更新のたびに状況を確認しておくほうが労務トラブルの予防になります。

2. 通算5年はどう数える?契約パターン別の申込権発生タイミング

無期転換申込権がいつ発生するかは、契約期間の設定によって変わります。代表的なパターンは次のとおりです。

契約期間のパターン 申込権が発生するタイミング(目安)
1年契約を更新 5回目の更新後、6回目の契約期間中
3年契約を更新 1回目の更新後、2回目の契約期間中
6か月契約を更新 10回目の更新後、11回目の契約期間中

いずれも「通算契約期間が5年を超えた」時点で発生する権利であり、契約の更新回数そのものが基準ではない点に注意が必要です。

クーリング期間(空白期間)にも注意

契約と契約の間に一定の空白期間(無契約期間)があると、それ以前の契約期間は通算されず、5年のカウントがリセットされます。原則として空白期間が6か月以上続いた場合にリセットされる仕組みですが、直前の契約期間が1年未満の場合はクーリングとみなされる空白期間の基準が短くなるなど、細かい規定があります。退職・再雇用を繰り返すスタッフがいる美容室では、このクーリング期間の判定を誤りやすいため、個別のケースは厚生労働省のリーフレットや社会保険労務士に確認することをおすすめします。

3. 2024年4月からの労働条件明示ルール改正

2024年4月1日から、労働契約の締結・更新時に明示すべき事項が追加されています。有期契約のスタッフを雇っている美容室では、契約書(労働条件通知書)の様式を見直す必要があります。主な改正内容は次の4点です。

  • 就業場所・業務内容の「変更の範囲」の明示:すべての労働契約の締結・更新時に、将来の配置転換等によって変わりうる就業場所・業務の範囲まで明示することが必要になりました。
  • 更新上限の明示:有期契約の締結・更新時に、通算契約期間または更新回数の上限の有無とその内容を明示する必要があります。上限を新たに設ける場合や短縮する場合は、事前にその理由をスタッフに説明することが求められます。
  • 無期転換申込機会の明示:無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、「無期転換を申し込むことができる」旨を書面で明示することが義務化されました。
  • 無期転換後の労働条件の明示:同じタイミングで、無期転換した場合の労働条件も書面で明示する必要があります。正社員など他の無期雇用スタッフとの均衡を考慮した説明も努力義務とされています。

これまで口頭や簡易な契約書で済ませていた美容室ほど、様式の見直しが必要になるケースが多いでしょう。有給休暇の取得義務についても2024年前後に実務対応が求められた事業所が多く、あわせて労務管理全体を点検しておくと安心です。有給休暇の年5日取得義務については美容室の有給休暇「年5日取得義務」対応で解説しています。

4. 無期転換したら、待遇はどう変わる?

無期転換は、あくまで「契約期間の定めがなくなる」ことを意味するものであり、無期転換=正社員化ではありません。労働条件(給与・業務内容・勤務地など)は、就業規則や労働契約に別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の内容が引き継がれるのが原則です。

とはいえ、実務上は次のような点をあらかじめ整理しておくことが望ましいといえます。

  • 無期転換後の契約社員向けに、賞与・退職金・昇給の有無を明確にした就業規則(または個別規程)を用意しているか
  • 歩合給・指名手当など美容室特有の給与体系が、無期転換後も同じ計算方法で運用できるか
  • 社会保険の加入要件(週の所定労働時間・所定労働日数など)に変更が生じないか

「無期転換されたら急に正社員と同じ待遇にしなければならないのでは」と不安に思う経営者の方もいますが、法律上は待遇を変える義務までは定められていません。ただし、同一労働同一賃金の考え方から、正社員との間に不合理な待遇差がある場合は別途見直しが必要になる点は押さえておきましょう。

5. 特例が適用される場合もある

高度な専門知識を持つ有期雇用労働者や、定年後に引き続き雇用される高齢の有期雇用労働者については、都道府県労働局の認定を受けることで、無期転換申込権の発生時期に関する特例が認められる制度があります。美容室では、定年後も技術指導やカラーリング専門で継続雇用するベテランスタイリストなどが該当する可能性がありますが、認定手続きが必要なため、該当しそうな場合は早めに専門家に相談することをおすすめします。

6. よくある質問

Q. 契約書に更新上限を書いていなかった場合、無期転換を拒めますか?

更新上限の定めがない契約を更新し続け、通算5年を超えた場合、スタッフから無期転換の申込みがあれば事業主側は拒否できません。「上限を決めていなかった」ことは、後から一方的に更新を打ち切る理由にはならない点に注意が必要です。上限を設ける場合は、契約当初からその内容を明示し、途中で新設・短縮する際は理由の説明も必要になります。

Q. パート・アルバイトのシャンプー担当や受付スタッフも対象になりますか?

雇用形態の呼び方(正社員・契約社員・パート・アルバイト)にかかわらず、有期労働契約を結んでいれば無期転換ルールの対象になります。週の勤務日数が少ない受付スタッフであっても、契約を更新し続けて通算5年を超えれば申込権が発生します。

Q. 無期転換を避けるために、5年になる前に雇止め(契約更新をしない)してもよいですか?

無期転換の申込みを妨げる目的で雇止めを行うと、労働契約法上の「雇止め法理」(同法19条)に照らして無効と判断されるリスクがあります。契約更新を重ねてきた実態や、更新への合理的な期待があると認められる場合、単に契約期間が満了したという理由だけでは更新拒否が認められないこともあるため、慎重な判断が必要です。

7. 美容室オーナーが今からできる対応

チェック項目 確認のポイント
契約社員・アルバイトの雇用期間の通算 入社日・更新履歴を一覧化し、通算5年に近いスタッフがいないか確認する
労働条件通知書の様式 2024年4月改正の4項目(変更の範囲・更新上限・無期転換申込機会・転換後の労働条件)が反映されているか
更新上限の有無 設ける場合はその内容と理由を契約時に説明できるようにしておく
無期転換後の就業規則 給与・賞与・退職金の扱いを明文化しているか
面貸し・業務委託契約の実態 指揮命令・時間拘束の実態から見て、雇用と誤認されるリスクがないか

特に多店舗展開している美容室では、店舗をまたいで異動させているスタッフの契約期間も同一の使用者として通算される点に注意が必要です。人手不足で長期に働いてもらっているスタッフほど、無期転換のタイミングが近づいている可能性があります。まずは契約社員・アルバイトスタッフの雇用期間を一度棚卸ししてみることをおすすめします。なお、有期契約のスタッフを正社員として登用する場合には、無期転換とは別の制度として国のキャリアアップ助成金が利用できる場合があります。要件や助成額は制度改正で変わることがあるため、活用を検討する際は最新情報をハローワークや社会保険労務士に確認してください。

まとめ

無期転換ルールは、有期雇用契約が通算5年を超えた場合にスタッフ側に生じる権利であり、雇用契約を結んでいる契約社員・アルバイトが対象です(業務委託・面貸しは対象外)。2024年4月からは労働条件明示のルールも強化されており、契約書の様式見直しが必要な美容室も多いはずです。無期転換そのものは待遇の即時変更を義務づけるものではありませんが、就業規則の整備や労働条件通知書の更新など、事前の準備が経営リスクの回避につながります。人事労務は税務・社会保険とも密接に関わるため、雇用契約と業務委託が混在する美容室ほど、早めに専門家に相談しながら体制を整えておくと安心です。

この記事の内容でご不明な点や、自店のスタッフの契約状況に当てはめた具体的な判断が必要な場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。

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