美容室が赤字になったら税金はどうなる?純損失・欠損金の繰越控除と注意点を税理士が解説
「今期は材料費も家賃も上がって、このままだと赤字かもしれない……」「赤字なら税金はゼロですよね?」「でも社会保険料や家賃の支払いは待ってくれない」。10月に入り、年末の着地が見えてくるこの時期、サロンオーナーからこうしたご相談をよくいただきます。
実は、赤字になったときの税金は「ゼロになる税金」と「赤字でも残る税金」に分かれます。さらに、赤字をどう申告するかによって、翌年以降の税負担や融資の評価まで変わってきます。この記事では、美容室・ヘアサロンの赤字決算にまつわる税金と、損失の繰越控除、赤字のときこそやっておきたい手続きを整理します。
赤字でもゼロにならない税金・ゼロになる税金
まず全体像です。「利益に対してかかる税金」は赤字ならかからない、または小さくなりますが、「利益と関係なくかかる税金」は赤字でも負担が残ります。
| 税金・費用 | 赤字のときの扱い |
|---|---|
| 所得税(個人事業主) | 事業所得が赤字なら、その年の所得税は基本的に発生しない |
| 法人税(法人) | 課税所得が赤字なら、法人税は発生しない |
| 法人住民税の均等割(法人) | 赤字でも負担が残る。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の場合、都道府県民税2万円+市町村民税5万円で標準的に年7万円(自治体や資本金等の額によって異なる) |
| 消費税 | 利益ではなく課税売上と課税仕入で計算するため、赤字でも納税が生じることがある |
| 償却資産税 | シャンプー台やスタイリングチェアなどの設備を持っていれば、利益に関係なくかかる |
| 社会保険料・労働保険料 | 税金ではないが、赤字でも支払いが続く固定的な負担 |
とくに法人の場合は、「赤字でも年7万円前後は必ずかかる」という点を押さえておくと、資金繰りの見通しが立てやすくなります。償却資産税の仕組みについては美容室の「償却資産税」とは?で詳しく解説しています。
個人事業主の赤字:損益通算と純損失の繰越控除
損益通算とは
個人事業主の美容室で事業所得が赤字になった場合、他に給与所得や不動産所得などがあれば、一定の所得と相殺できます。これを損益通算といいます。たとえば、独立前の年に勤務していた分の給与がある、不動産の賃貸収入がある、といったケースです。
引ききれない赤字は3年間繰り越せる(青色申告の場合)
損益通算してもなお引ききれない赤字は「純損失」と呼ばれます。国税庁の案内によると、青色申告をしている場合、この純損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できます。
たとえば、開業初年度に大きな赤字が出た美容室が、2年目、3年目に黒字化したとき、初年度の赤字を黒字から差し引けるため、所得税・住民税の負担を抑えられる可能性があります。
白色申告だと繰越しはほぼできない
青色申告をしていない年分の純損失は、原則として繰越控除の対象外です。例外として、変動所得の計算上の損失と被災事業用資産の損失は、白色申告でも翌年以後3年間の繰越しが認められています。美容室の通常の営業による赤字は、この例外には当たらないのが一般的です。
つまり、赤字になりそうな年こそ、青色申告をしていることが大きな意味を持ちます。青色申告承認申請書の提出期限は、原則としてその年の3月15日まで(新たに開業した場合は開業から2か月以内など、ケースにより異なります)です。まだ提出していない場合は、早めに税務署で確認してください。
繰越控除を受けるための申告のポイント
- 赤字の年も、期限内に確定申告書を提出する(損失の金額を記載する)
- その後の年も、連続して確定申告書を提出する
- 帳簿・領収書など、赤字の根拠となる資料をきちんと保管する
「赤字だから申告しなくていいだろう」と放置すると、せっかくの繰越控除が使えなくなります。赤字の年こそ申告が必要です。
法人の赤字:欠損金の繰越控除
法人の場合も同様の仕組みがあります。国税庁のタックスアンサーによると、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出している法人は、欠損金を繰り越して後の事業年度の所得から控除できます。平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金は、繰越期間が10年です。
また、資本金が小さい中小法人等は、繰り越した欠損金をその事業年度の所得の範囲で控除できるとされています(大法人のような控除割合の制限を受けません)。ご自身の法人が「中小法人等」に当たるかどうかは、資本金の額や株主構成によって異なるため、顧問税理士に確認してください。
法人化を検討中の方は、赤字の年の負担(均等割や社会保険料)も含めて比較することが大切です。美容室の法人化は利益いくらから?もあわせてご覧ください。
個人と法人の繰越期間の比較
| 項目 | 個人事業主(青色申告) | 法人(青色申告) |
|---|---|---|
| 赤字の呼び方 | 純損失 | 欠損金 |
| 繰越期間 | 翌年以後3年間 | 10年(平成30年4月1日以後開始の事業年度分) |
| 主な条件 | 青色申告・赤字の年も申告・その後も連続して申告 | 青色申告書の提出・その後も連続して申告 |
| 赤字でも残る税金 | 消費税・償却資産税など | 均等割・消費税・償却資産税など |
美容室で赤字になりやすい3つのパターン
1. 開業直後・移転直後
内装工事、シャンプー台やスタイリングチェアの購入、広告費などの初期費用が重なり、売上が安定する前に赤字になるパターンです。減価償却費も大きくなるため、帳簿上の赤字は実際の資金の動きより大きく見えることがあります。
2. スタッフ増員・多店舗展開
スタイリストを採用して歩合給を支払い始めたものの、集客が追いつかず人件費だけが先行するパターンです。社会保険の加入が必要になると、会社負担分の保険料も固定費として加わります。
3. 材料費・光熱費・家賃の上昇
カラー剤やパーマ剤の仕入価格、水道光熱費が上がっても、メニュー価格に転嫁できないまま利益が圧迫されるパターンです。原価率や損益分岐点を定期的に見直すことで、赤字の兆しを早く発見できます。
赤字のときに気をつけたい5つのこと
(1)無理な節税で赤字を作らない
「どうせ税金が減るから」と必要のない設備投資や支出を増やすと、手元の現金が減るだけです。節税はあくまで支出が先にあって、その結果として税金が減るものにすぎません。
(2)赤字は融資の評価にも影響する
赤字決算が続くと、金融機関の融資審査で不利になることがあります。創業融資や運転資金の借入れを予定している場合は、決算内容が評価に影響する点を意識してください。創業時の融資については美容室の創業融資|日本政策金融公庫の審査に通るコツが参考になります。
(3)赤字でも「掛金型の節税商品」に飛びつかない
赤字や利益の少ない年に、小規模企業共済や経営セーフティ共済などの掛金を増やすと、キャッシュフローをさらに圧迫するおそれがあります。それぞれの制度の仕組みや注意点は美容室オーナーの経営セーフティ共済(倒産防止共済)活用術で解説していますが、赤字の年は資金繰りを最優先に判断しましょう。
(4)役員報酬・オーナーの生活費を見直す
法人の場合、役員報酬は原則として期中に自由に変更できません。個人事業主の場合は、事業主の生活費(事業主貸)が事業の資金を圧迫していないかを確認しましょう。
(5)年末の着地見込みを早めに出す
10月の試算表が出た時点で、年末までの売上・経費を見込み、「黒字か赤字か」「いくらの利益か」を試算しておくと、対策の選択肢が増えます。具体的な出し方は美容室の年内利益の着地見込みの出し方で解説しています。
赤字を放置すると起こりがちな失敗
- 赤字だからと確定申告をせず、繰越控除が使えなかった
- 白色申告のまま赤字を出してしまい、翌年以降の黒字と相殺できなかった
- 面貸しや業務委託の報酬、売上の計上漏れがあり、実際は黒字なのに赤字で申告してしまった
- 赤字なのに消費税の納税資金を用意しておらず、申告期限に資金不足になった
赤字決算は「税金がかからないからラッキー」ではなく、「将来の黒字で税負担を軽くするための持ち越し資産」として管理する意識が大切です。
よくあるご質問
Q. 赤字の年は、開業届や青色申告の届出が遅れていても大丈夫ですか?
青色申告の承認を受けていない年分の赤字は、原則として繰り越せません。届出の期限に間に合っていたかどうかで、翌年以降の税負担が大きく変わることがあります。届出状況が不明な場合は、税務署または税理士に早めに確認してください。
Q. 面貸しサロンや業務委託の美容師でも、赤字を繰り越せますか?
事業所得として青色申告をしていれば、個人事業主として純損失の繰越控除の対象になり得ます。ただし、報酬の性質によっては給与所得や雑所得と判断される場合があり、その場合は取扱いが異なります。契約内容と収入の実態を確認することが大切です。
Q. 赤字のときでも記帳は必要ですか?
必要です。繰越控除を受けるには、赤字の根拠を示せる帳簿と証拠書類が前提になります。売上の記録、材料仕入や家賃の請求書、回数券や前受金の管理表など、日々の記録を残しておきましょう。
Q. 赤字が続いたら法人化は避けるべきですか?
一概にはいえません。法人は赤字でも均等割や社会保険料の負担が残る一方、欠損金を10年間繰り越せるなどの特徴があります。今後の利益見込みや、スタッフ数、融資の予定を踏まえて総合的に判断する必要があります。
まとめ
- 赤字でも、法人の均等割(標準的に年7万円)、消費税、償却資産税、社会保険料などの負担は残る
- 個人事業主は、青色申告なら純損失を翌年以後3年間繰り越せる(白色申告は原則対象外)
- 法人は、青色申告なら欠損金を10年間繰り越せる(平成30年4月1日以後開始の事業年度分)
- 赤字の年も期限内に申告し、その後も連続して申告することが繰越控除の前提
- 赤字は融資評価にも影響するため、10月のうちに年末の着地を試算し、必要な対策を検討する
なお、税制や各制度の取扱いは改正や個別の事情で変わることがあります。実際の判断は、最新の国税庁・自治体の案内を確認のうえ、税理士にご相談ください。
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