美容室の「経営者保証」はもう当たり前じゃない?法人化オーナーが個人保証なし融資を目指す3つの条件を税理士が解説
「開業のときに実印を押した連帯保証、あれから何年も忘れていたけれど、2店舗目の融資相談で改めて突きつけられた」——法人化した美容室オーナーから、そんな声を聞くことがあります。事業がうまくいかなくなれば自宅や個人の預金まで返済に充てなければならない「経営者保証」は、長年、中小企業融資の当たり前とされてきました。
しかし近年、国を挙げて「経営者保証に依存しない融資」への転換が進められており、条件を満たせば保証なしで借りられる、あるいは既存の保証を見直せる可能性が広がっています。法人化した美容室、これから法人化を検討している美容室オーナー向けに、制度の仕組みと今からできる準備を整理しました。
経営者保証とは何か
経営者保証とは、法人が金融機関から融資を受ける際に、代表者個人が会社の借入について連帯保証人となる契約です。会社の業績が悪化して返済できなくなった場合、代表者は個人の資産(自宅・預金など)を取り崩してでも返済する義務を負います。
美容室経営は、天候や周辺の出店状況、スタッフの退職による稼働率低下など、外部要因で売上が変動しやすい業種です。廃業や事業承継の場面で個人保証が足かせとなり、再チャレンジや円滑な引き継ぎを妨げるケースがあることから、国も改善に力を入れています。
まず押さえておきたい前提:個人事業主と法人では話が違う
ここが混同されやすいポイントですが、「経営者保証」の議論は、基本的に法人が金融機関から借りたお金に、代表者が保証人として連帯保証を付けるケースを指します。個人事業主(屋号)のまま創業融資を受けている美容室オーナーの場合、そもそも借入の名義自体が本人の債務であり、法的な意味での「保証」ではありません。
そのため、この記事でご紹介する内容は、主に法人化した美容室オーナー、あるいは今後法人化を検討している方に関わるテーマです。個人事業のまま創業融資を利用する場合の審査のコツについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
美容室の創業融資|日本政策金融公庫の審査に通るコツと自己資金の目安
経営者保証が重荷になりやすい美容室の場面
経営者保証は、借りているときは意識しなくても、次のような場面で重くのしかかってきます。
- 2店舗目・3店舗目への出店:借入額が増えるほど保証の重みも増し、代表者の家族から反対されて出店を断念するケースもあります。
- 事業承継:後継者候補のスタッフや家族が「借入の保証人にはなりたくない」という理由で、承継そのものを渋ってしまうことがあります。
- 廃業・清算:経営が立ち行かなくなった場合、法人を清算しても保証人である代表者個人の返済義務は残るため、再スタートのハードルが上がります。
こうした場面を見据えると、保証の有無は開業時だけでなく、経営の節目ごとに見直す価値があるテーマだといえます。
「経営者保証に関するガイドライン」の3要件
2014年から適用されている「経営者保証に関するガイドライン」では、次の3つの要件をすべて満たすことで、金融機関が経営者保証を求めない、あるいは既存の保証を見直す可能性を検討できるとされています。中小企業庁の整理によれば、いずれか一つでも欠けると対象になりにくいとされる、いわば「AND条件」です。
| 要件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ① 法人と経営者の分離 | 会社の資産と経営者個人の資産・家計を明確に区分し、資金のやり取りに客観的な合理性を持たせる |
| ② 財務基盤の強化 | 法人自体の資産・収益力で借入を返済できるだけの財務体質を備えている |
| ③ 適時適切な情報開示 | 試算表や決算書などの財務情報を、金融機関に定期的・継続的に開示している |
美容室の場合、オーナーの生活費や個人的な買い物を法人のクレジットカードや経費で処理してしまう、役員報酬が不自然に低く会社にお金を残していない、といった状態は①や②の評価を下げる要因になりがちです。日々の記帳や役員報酬の水準について、法人化のタイミングで一度整理しておくとよいでしょう。
法人化そのものの損益分岐点や進め方については、こちらの記事も参考になります。
美容室の法人化は利益いくらから?個人と法人の手取り比較表でわかる分岐点
2023年4月から、金融機関には「説明義務」がある
金融庁の方針により、2023年4月から、金融機関が経営者保証を求める場合には、その必要性を個別具体的に説明し、説明内容を記録することが求められるようになりました。「どの部分が十分でないために保証契約が必要なのか」「どのような改善を図れば、保証の変更や解除の可能性が高まるのか」を、金融機関側から説明を受けられる、という立て付けです。
融資の相談や更新のタイミングで、こちらから「経営者保証ガイドラインの適用について検討してもらえないか」と尋ねてみることも、選択肢として持っておくとよいでしょう。既存の借入についても、借換えや追加融資の相談時にあわせて交渉できる場合があります。
保証をなくす・軽くするための具体的な制度
3要件を満たすことを目指す以外にも、次のような制度が用意されています。いずれも要件や保証料率は変更されることがあるため、利用を検討する際は、取扱窓口である信用保証協会・日本政策金融公庫・取引金融機関に最新の内容を確認してください。
- 信用保証協会の「事業者選択型経営者保証非提供制度」:2024年3月から始まった制度で、通常より保証料率を上乗せすることを条件に、経営者保証を提供しないことを事業者側が選択できます。
- 日本政策金融公庫の「経営者保証免除特例制度」:同公庫の融資について、ガイドラインの考え方に対応した、経営者の保証を不要とする制度が用意されています。
どちらも、保証を外す代わりに保証料や金利面で一定の条件が付くのが一般的です。「保証がなくなる分、何らかのコストが発生する」ことを踏まえ、資金繰りへの影響も含めて検討することをおすすめします。
美容室オーナーが今日からできる3つの準備
- 法人名義と個人名義の口座・カードを徹底的に分ける:役員報酬として適正に受け取った後は個人の口座で管理し、法人の口座・カードで個人的な支出を行わない。
- 毎月の試算表を早めに作成し、金融機関にも共有できる状態にしておく:記帳が数か月遅れている状態では、情報開示の要件を満たすことが難しくなります。
- 役員報酬・内部留保のバランスを見直す:目先の手取りだけでなく、法人にどれだけ利益と自己資本を残せているかという視点も、金融機関からの評価に影響します。
これらは経営者保証の見直しだけでなく、2店舗目の出店や法人としての信用力向上にもつながる取り組みです。一人美容室から法人化した場合の社会保険・税務まわりの最適化については、こちらの記事もご参照ください。
一人美容室の法人化とマイクロ法人|美容国保×社会保険料の最適化を解説
よくある質問
Q. 個人事業主のままの美容室でも、経営者保証は関係ありますか?
A. 個人事業主として日本政策金融公庫などから創業融資を受けている場合、その借入自体が事業主本人の債務であり、別の人が保証人になるのでない限り「経営者保証」には当たりません。この記事の3要件や各種制度は、主に法人として借入をしている、またはこれから法人として借入をする場合に関わる話です。ただし、法人化を検討している方は、法人化の前後で借入の性質が変わる点を意識しておくとよいでしょう。
Q. 経営者保証をなくすと、その分金利や保証料は上がりますか?
A. 制度によって条件は異なりますが、保証料率の上乗せなど、何らかの形でコストが発生する設計になっているものが一般的です。保証をなくすこと自体を目的化せず、資金繰りへの影響とのバランスで判断することが大切です。
Q. すでに経営者保証付きで借りている融資を、あとから見直すことはできますか?
A. 借換えや追加融資、決算後の定期的な相談のタイミングなどで、金融機関に経営者保証ガイドラインの適用を相談できる場合があります。2023年4月からは金融機関側にも保証の必要性を説明する義務があるため、決算報告や借入の見直しの機会に、あわせて確認してみるとよいでしょう。
店舗の賃貸借契約の連帯保証とは別の話
美容室オーナーの場合、金融機関からの借入とは別に、テナント物件の賃貸借契約でもオーナー個人が連帯保証人になっているケースが多くあります。この記事で扱う「経営者保証ガイドライン」は、あくまで金融機関からの融資に対する保証が対象であり、物件オーナーとの賃貸借契約上の連帯保証や、保証会社を利用する契約とは別の枠組みです。両方を混同しないよう、借入の保証と賃貸借の保証は別々に整理して考える必要があります。
まとめ
経営者保証は長らく融資の当たり前とされてきましたが、国のガイドラインや各種制度の整備によって、条件を満たせば保証なし融資を選べる可能性が広がっています。
- 経営者保証の議論は基本的に「法人の借入」が対象で、個人事業主本人の借入とは性質が異なる
- 法人と個人の分離・財務基盤の強化・適時適切な情報開示の3要件をすべて満たすことが基本の考え方
- 2023年4月からは金融機関に保証の必要性を説明する義務がある
- 信用保証協会や日本政策金融公庫にも、保証を不要とする制度が用意されている
制度の詳細な要件や保証料率は見直されることがあるため、実際に利用を検討する際は、必ず最寄りの信用保証協会・日本政策金融公庫・取引金融機関で最新情報を確認してください。
この記事の内容でご不明な点や、自店の財務状況をふまえて経営者保証の見直しが現実的かどうかの判断が必要な場合は、美容室専門の税理士事務所フェリスにお気軽にご相談ください。
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